複数の国で、アストラゼネカ社のワクチンによる深刻な副反応の可能性が報告されたことを受け、ドイツ、フランス、イタリアの3ヵ国は15日月曜日、アストラゼネカ社のCOVID-19の予防接種を中断すると発表しました。しかし世界保健機関(WHO)は、関連性は証明されていないとし、パニックを起こしてほしくない、と述べています。
EUの3大国がアストラゼネカ社の予防接種を中断したことで、すでに遅延しているEU27ヵ国でのワクチンキャンペーンは混乱に陥っています。
デンマークとノルウェーでは先週、出血、血栓、血小板数の低下などの事例が報告されたため、予防接種を中止。アイスランドとブルガリアも同様に、14日日曜日に接種の中止を発表しました。
またスペインでは15日間、ワクチン接種を中止すると、カデナ・セルラジオは述べていますが、この情報源については不明です。
WHOのトップ科学者は15日、COVID-19ワクチンに関連した死亡例はないと繰り返し述べました。
WHOのチーフサイエンティストであるソーミャ・スワミネイサン氏は記者会見で、「人々をパニックにしたくないので、当面はアストラゼネカ社製のワクチンの接種を継続することを推奨する」と述べ、いくつかの国で報告されているいわゆる「血栓塞栓症」とCOVID-19ワクチンの接種との間には、これまでのところ関連性はないとしています。
ヨーロッパのなかでも人口の多いこれらの国々による決断は、アストラゼネカ社のワクチンを含むワクチン生産の問題による展開の遅れにさらなる拍車をかけることとなります。
「ワクチンは安全で効果的である」
オーストラリアでは、アストラゼネカ社のワクチンが導入されており、初期フェーズでは輸入されたワクチンが使用されるものの、その後はメルボルンのCSL社で5,000万回以上が生産され、オーストラリアでは人口の大半がこの国内産を接種することとなります。
チーフメディカルオフィサーのポール・ケリー氏は、オーストラリアの主力として選ばれたアストラゼネカ社のワクチンは安全で効果的であると述べています。
ケリー教授は、アストラゼネカ社のワクチンが血栓を引き起こすという証拠はなく、「アストラゼネカ社のCOVID-19ワクチンは効果的で、安全で、高品質なワクチン」と改めて述べました。

Australian Chief Medical Officer Paul Kelly. Source: AAP
ケリー教授によると、英国では1,100万人以上がワクチンを接種しており、血栓の増加の証拠はないとし、異常な出来事を注意深く監視することは重要である一方で、必ずしもワクチンのせいにはできないと警告しています。
オーストラリアは欧州の医療機関と緊密な関係にあるため、コロナウイルスワクチンに問題がある場合、常に最初に通知を受けることになっているとし、今回中断を発表した国々は、「迅速に完全な調査を行うための予防的措置」であったと述べています。
ケリー氏は、他の国では現在でもワクチンが継続されており、またオーストラリアには副反応の報告に関する明確なプロトコルがあると指摘しました。
先週コロナウイルス第3波に直面していると警告したドイツのイェンス・シュパーン保健相は、血栓の危険性は低いものの、それを否定することはできないと述べました。
「これは政治的な判断ではなく、専門的な判断である」と述べ、ドイツのワクチン規制機関であるポール・エーリック研究所の勧告に従ったものであることを明らかにしました。
一方で、都市パリ地域の病院が過負荷に近い状態にあるフランスでは、16日に予定されているEUの医薬品規制機関による評価を待たずに、ワクチンの使用を停止すると発表しました。
ロックダウンを強化したイタリアは、ワクチン接種の中断は、規制当局の決定が出るまでの「予防的かつ一時的な措置」であるとしています。
WHOは、世界で270万人以上の死者を出しているこの病気に対して、予防接種を中止しないよう各国に呼びかけています。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス長官は、、「これらの症例が必ずしもCOVID-19ワクチン接種と関連しているとは限らない」と述べています。

Gladys Berejiklian has received her first dose of the coronavirus jab as the AstraZeneca rollout starts in NSW. Source: Getty Images AsiaPac
ワクチンに対する不安を煽るもの
欧州医薬品庁(EMA)の発表によると、3月10日には、ヨーロッパ30カ国を結ぶ欧州経済領域において、アストラゼネカ社の注射を接種した500万人近くの人々の間で、合計30件の血栓症の症例が報告されています。
サザンプトン大学のマイケル・ヘッド上級研究員は、フランスやドイツでのワクチン中断の決断は、不可解であると述べています。
「我々が入手しているデータによると、血栓に関する報告数は、ワクチンを接種したグループと、ワクチンを接種していないグループを比較しても同じ(あるいは実際に低い)であることが示されています」
「これは人々のワクチンに対する不安を煽るもので、ワクチン接種の遅れにも繋がります」
異常な症状
アストラゼネカ社のワクチンは、2019年末に中国でコロナウイルスが初めて確認されて以来、大量に開発・発売された最も安価なものの一つであり、多くの発展途上国では予防接種プログラムの主力となることが期待されています。
WHOは、このワクチンに関する報告を再調査し、その結果をできるだけ早く発表すると述べる一方で、先月発表した、南アフリカの変種ウイルスの影響で効果が低下する可能性がある国を含めて、広く使用することを推奨する内容は変更しない見込みです。
また、EMAは、これらの症例がワクチン接種によって引き起こされたことを示すものはなく、報告された血栓の数は一般の人々に見られるものと変わらないとしています。
ヨーロッパで報告されたわずかな副作用により、すでにいくつかの国では接種計画の遅れやワクチンに対する懐疑的な見方が出るなど、混乱を引き起こしています。

Australians have to accept that living with COVID is the future says Prime Minister Scott Morrison. Source: AAP
オランダは15日に、アストラゼネカ社のワクチンによる重大な副作用の可能性が10件報告されたと発表した一方で、デンマークでは、ワクチン接種後に血栓で死亡した60歳に「極めて異常な」症状が見られたと報告しました。
ノルウェーは、アストラゼネカ社の予防接種を受けて入院した3人の医療従事者のうち、1人が死亡したと保健当局が15日に発表しましたが、ワクチンが原因であるという証拠はありませんでした。
アストラゼネカ社は、EUと英国でワクチンを接種した1,700万人以上を対象に調査を行いましたが、血栓のリスクが高まったという証拠はなかったと発表しています。
米国で3万人を対象に行われたアストラゼネカ社ワクチンの臨床試験の待望の結果は、現在、その安全性と効果について独立したモニターが検討していると、アメリカ政府は15日に発表しました。
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