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オーストラリアにおけるアストラゼネカワクチン

アストラゼネカワクチンにおけるアドバイスが二転三転し、議論が高まる中、SBSニュースがワクチンに関するこれまでの経緯と、今後の展開について説明します。

Advice around the AstraZeneca COVID-19 vaccine has changed again

Source: SBS News/Brayden Gifford

アストラゼネカ社のCOVID-19ワクチンの評判は、非常に稀な血栓との関連性や、オーストラリアの若年層への使用を制限する健康上のアドバイスの変更など、ここ数ヵ月で打撃を受けています。

しかし、医療関係者や政府関係者らは、COVID-19に関連する重篤な病気や入院、死亡を避けるためには、オーストラリア人にとってこのワクチンは依然として最善の策であるとしています。

以前はオーストラリアのワクチンプログラムの大多数を占めると言われていたアストラゼネカワクチンに、今何が起こっているのか、そして今後どうなるのか、まとめてみました。

最近の変更とは?

連邦政府は先週、ワクチン専門家パネルATAGI(オーストラリアン・テクニカル・アドバイザリー・グループ・オブ・イミュナイゼーション)からの新たなアドバイスにより、オーストラリアではすると発表しました。

もうすでに1回目の接種を受けた人は、2回目の接種を行い、予約をキャンセルしないよう、政府は呼び掛けています。保健省によると、これまでに報告された数件の血栓症のほとんどは、初回接種後に発生しているとのことです。

「1回目の投与で重篤な副作用がなかった人は、自信を持って2回目の投与を受けることができます」
アドバイスの変更の理由は、若年層では血液凝固異常症である血栓症・血小板減少症候群(TTS)のリスクが高いと評価されたためです。

「しかしながら、我々を取り巻く状況の変化に伴い、将来的にこのアドバイスがどちらの方向にも変更する可能性があるということを理解しておくことが重要です」と、シドニーのマ―タ―・ヘルス・サービス社の感染症ディレクターである、ポール・グリフィン氏は語ります。

オーストラリアでの今後の展開は?

政府はアストラゼネカ社のワクチンを5,380万本購入することに合意しており、今年初めにはさらに5,000万本を国内製造する計画が立てられていました。

このワクチンは、60歳以上の方には引き続き提供されますが、国民のほとんどに接種するという政府の当初の計画とはかけ離れたものです。

フリンダース大学医学部・公衆衛生学部のウイルス学者であるジル・カー教授は、ワクチンの接種対象を60歳以上に限定することは、オーストラリアのコミュニティが迅速に免疫を獲得する能力に影響を及ぼすと述べています。
「アストラゼネカ社は当初、ワクチンの主要供給元でした。しかし、政府は60歳以下の人口への供給不足を補うために代替策を用意しているようです」。

ファイザー社は、オーストラリアでの展開に大きな役割を果たすことになりました。

オーストラリアのCOVID-19ワクチン展開のコーディネーターであるジョン・フリューウェン氏は、8月からの投与量の大幅な増加に向けて、ファイザー社の供給を「慎重に管理している」と21日に述べました。

関係者は、アストラゼネカ社のワクチンを60歳以上の人に提供することのメリットは、リスクをはるかに上回るとしています。

なぜ廃棄しないのか?

その理由の一つは、血栓のリスクが非常に低いにもかかわらず、アストラゼネカ社のワクチンはCOVID-19による死亡や入院を高いレベルで防ぐことができると評価されているからです。

わかりやすく表現すると、TTSで死亡するリスクは200万回の投与につき1回程度と、これは雷に打たれて死亡するのとほぼ同じ確率です。

するように、交通事故や溺れて死亡する確率の方が高いのです。

ラ・トローブ大学公衆衛生学部のハッサン・ヴァリー准教授は、「TTSのリスクがいかに小さいかを十分に理解すれば、自分や他人を守るためにアストラゼネカのワクチンを接種するかどうかの決断は、より簡単なものになるでしょう」と述べています。

ファイザーワクチンは足りているのか?

アストラゼネカ社のワクチンを廃棄できないもう一つの理由は、現時点で、ファイザー社のワクチンが全人口分ないからです。

オーストラリアはファイザー社のワクチン(2回接種)を4,000万回分発注していますが、そのうちの半分は今年の第4四半期に納入されることが約束されており、供給は現在限られています。またモデナ社やノババックス社のワクチンは今年の後半まで手に入らないようです。

「残念ながら、連邦政府はアストラゼネカ社に賭けてしまったため、大きな問題になっています」と南オーストラリア大学の生物統計学の教授であるエイドリアン・エスターマン氏は言います。
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シドニー大学の看護学・助産学の教授で、感染症と予防接種を専門とするジュリー・リースク教授は、今後数週間から数ヵ月の間にファイザー社のワクチンの需要は高まるだろうとみています。

「十分な供給が得られるまでは、特に若い年齢層では、必要なときにファイザーにアクセスできない人が出てくるかもしれません」

「この問題は、(COVID-19の)流行時にワクチン需要が急増した場合に悪化するでしょう。ほとんどの地域では、年内に供給が増加するまで、追加の需要に対応できることを期待しています」と述べています。

他の国はどうしてる?

アストラゼネカ社のワクチンをどのように投与するかについては、年齢や性別で分けたり、使用を全面的に禁止したりと、各国で対応が異なっています。

イギリスでは、アストラゼネカのワクチンは40歳以上の人に提供されていますが、韓国では30歳以上の人に限定されています。

ドイツでは、60歳未満の使用を禁止していた制限を解除し、現在は年齢制限がありません。
チリでは最近、男性がワクチンを接種できる最低年齢を18歳から45歳に引き上げ、女性の45歳以上という制限と同じにしました。

オーストラリアと同様に、イタリアでも最近、60歳未満の人へのワクチン接種を中止しました。イタリア政府は、すでにアストラゼネカ社のワクチンを1回目に接種した若いイタリア人は、2回目には別のワクチンを接種すると発表しています。スペインも60歳以上の方にアストラゼネカの使用を制限しています。

デンマークは4月に、当初は使用を停止していたワクチンの使用を全面的に中止した最初の国となりましたが、当局は現在、政府から再考を求められています。また、ノルウェーもアストラゼネカ社のワクチンをプログラムから外しています。

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Published 23 June 2021 12:08pm
Updated 14 July 2021 1:57pm
By Rashida Yosufzai
Presented by Yumi Oba


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