ムンジール・アル・ナザールさんは、シリア北西部・イドリブのバザールを歩いていたところ、爆発に見舞われ、右足を失いました。彼の息子、ムスタファ君には、生まれつき手足がありません。
アル・ナザールさんの妻ゼイナブさんは、ムスタファ君を妊娠中にシリア内戦で神経ガスを吸ったことにより、息子はテトラ・アメリア症候群という珍しい症状を発症。その結果、生まれつき四肢がありません。
シリアを離れ、無事にトルコの国境沿いにあるハタイ・レイハンリーにたどり着いた一家は、そこで写真家のメフメト・アスランさんと出会い、親しい関係になります。
アスランさんが、父と息子の親密な様子を率直にとらえた写真は、このほどシエナ国際写真賞2021(SIPA)の「フォト・オブ・ザ・イヤー」に選ばれました。
「一般的に戦争は世界的な問題であり、私が写真を撮り始めた主な理由の一つでもあります。しかし、この家族が置かれている悲惨な状況は、私に大きな影響を与えました」とアスランさんはSBS Newsに語りました。
「この写真がこんなにも注目されるとは想像もしていませんでしたが、その事実を大変幸せに思います」
20人のSIPA審査員の一人である写真家、セルジオ・ピタミズ氏は、この作品は「例外的」で「見るのが苦しい」と述べました。
「しかし、そのドラマの中には、私たちが想像もできないような恐怖な状況を生き抜いた父と息子の喜びと幸せの瞬間があります」
「本当に困難な状況に置かれているにもかかわらず、彼らには笑顔の強さがあります。1枚の写真の中には、紛争の悲劇と、それを乗り越えた幸福感がすべて詰まっています」
この賞には163カ国から数千人の写真家が応募しましたが、「The Hardship of Life」と題されたアスランさんの写真が受賞の栄冠に輝きました。
「私は、人が倒れたときに助けの手を差し伸べて、立ち上がらせることが大好きです。私は、不利な状況にある人を常に助けるように育てられました」と言います。
トルコでは現在、幼いムスタファ君に義肢の治療を施すことができないため、アスランさんは自分の写真が認められたことで、この家族を支援するための国際的な取り組みにつながることを期待しています。
「私は自分の写真を通して意識を高め、変化を起こしたいと思っていますが、今回の写真の目的は、ムスタファ君の家族のことをより多くの人に知ってもらい、ムスタファ君の義肢のための資金を得ることです」と彼は言います
SIPAの最優秀トラベルフォト賞には、スリランカで象が人の乗ったジープを襲う様子を撮影した、セルゲイ・サヴィさんが輝きました。サヴィさんの写真は、自然界における人間と動物の複雑な関係を浮き彫りにしたと評価されました。

The COVID-19 category winner, capturing 98-year-old woman Elena Perez celebrating her birthday in a nursing home after recovering from the virus. Source: Supplied/Brais Lorenzo Couto

The winning photograph in the travel category, featuring an elephant attacking a Jeep full of people in Yala National Park, Sri Lanka. Source: Supplied/Sergey Savvi
また新たに設けられたCOVID-19部門では、ウイルス検査で陽性反応が出た後に回復した98歳の女性、エレナ・ペレスさんを撮影したブレイス・ロレンソ・クオトさんが受賞。写真でペレスさんは、誕生日を一緒に祝う老人ホームのスタッフに囲まれています。
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