コロナ変異種 オーストラリアは英発便を停止するべきか

急速に拡大している新型コロナウイルスの変異種を受け、世界各国はイギリスのフライトに新たな制限を導入しています。しかし専門家は、これはオーストラリアがそれに続くべきだという意味ではないと言います。

Travellers wait at Dusseldorf Airport, Germany.

Source: picture alliance

世界中の保健当局は、英国で発生したと考えられる新型コロナウイルスの変異種に厳戒態勢を敷いており、イギリスからのフライトをキャンセルしています。

しかし、オーストラリアの保健専門家によると、B117系統と呼ばれるこの新型コロナウイルスは、すでに世界中に蔓延している可能性が高いため、イギリスからのフライトを制限してもほとんど効果はないとのことです。

急速に拡散しているこの変異種は、一般的なウイルスよりも約70%も感染力が高く、イギリスでは瞬く間に最も多いウイルスの株となりました。日本をはじめ、ヨーロッパの多くの地域、そして現在はオーストラリアでの感染も確認されており、世界的な混乱を引き起こしています。
オーストラリアでは、ニューサウスウェールズ州で2件、ビクトリア州で2件、南オーストラリア州で1件と、少なくとも5件の症例が検出されていますが、これまでのところ、すべてホテルに隔離中の帰国者で、市中感染は確認されていません。

日本政府は26日、外国人の入国を12月28日から1月末まで禁止することを発表したほか、中国はイギリス発着のすべてのフライトを停止。アメリカではイギリスの旅行者にフライト前に検査を受けることを要求するなど、対策を行っていますが、オーストラリアは、イギリスからの市民や居住者の本国送還を続けています。

グレッグ・ハント保健相は28日、オーストラリアが実施している14日間のホテル検疫システムは世界クラスであり、国民を安全に保つことができると述べ、アメリカと同様のアプローチを採用することは検討していないと述べました。

「オーストラリアは間違いなく世界で最も厳格な入国制限を敷いています。似たような対応をしている国はいくつかありますが、14日間の隔離措置は世界的に見てもあまり広く使われていません」と記者団に語りました。
チーフメディカルオフィサーのポール・ケリー氏も、オーストラリアの厳格なホテル検疫プログラムについて言及し、イギリスからの帰国者を受け入れ続けるという政府の決定を弁護しました。

「仮にイギリスからの旅行者がそのウイルスに感染していたとしても、オーストラリアでは管理されています。ホテルの一室に1人で2週間滞在すれば、感染がその部屋の外に出ることはありません。私たちの検疫システムは大半、非常に安全で効果的でした」とケリー氏は付け加えました。
The information board at Berlin Airport, Germany shows flights from the UK are cancelled.
Following the emergence of a new variant of the coronavirus, numerous countries are suspending flights from the UK. Source: Getty Images

「システムの信頼」

オーストラリアの国境管理と検疫システムは完璧ではないものの、「国境規制が緩い他の国々と比べると、国民はこの変異種から守られている」、とオーストラリアの保健専門家は語ります。

また、変異種による感染拡大の影響が大きい一方で、Covid-19が常に変異しているという視野を持つ必要性についても述べました。
メルボルンを拠点とする救急医で、オーストラリア医師会の元副会長であるスティーブン・パーニス博士によると、Covid-19は過去12ヵ月間に世界中で何百万もの変異を経てきたと推定しています。

「Covid-19は常に進化してきました。問題は、それがウイルスの行動をどのように変化させるかということです。最悪のシナリオは、突然変異によって症状が深刻化することですが、現在イギリスで蔓延している変異種にそのような傾向は見られません」とSBSニュースに語りました。

「(イギリスの変異種は)感染しやすくなるという点では、感染拡大と闘う我々にとって重要な意味を持ちます」
Melbourne-based emergency physician and former vice president of the Australian Medical Association Dr Stephen Parnis.
Dr Stephen Parnis guesses COVID-19 would have been through millions of variants worldwide over the last 12 months. Source: Dr Stephen Parnis
メルボルン大学の公衆衛生学者、ネイサン・グリルズ准教授は、一部の国の政府によるイギリス便の禁止は「過剰反応」であり、政治的動機がある可能性が高いとも述べています。

またこの変異種はすでに多くの国に存在している可能性が高く、イギリスはそれを検出した最初の国に過ぎない、と語ります。

「イギリスは、蔓延しているウイルス株を知ることは有用であると考えており、定期的にCovidのあらゆる株の検査を行ってきた数少ない国のひとつです」

「オーストラリアは特別な懸念がある場合に検査を行っていますが、多くの国では定期的に行われているわけではありません。イギリスは、より多くの警戒心を持つことで、逆に問題を引き起こしてしまったとも言えます」

「他国のこのような対応に驚いています。国境を閉鎖することで、危険なウイルスを防いでいるように見せる、政治的動機があるのではないかと、疑問を持たざるを得ません」

オーストラリアで度々発生するクラスターによって、その都度微調整が続けられてきた検疫システムは、その結果、現在では非常に効果的なものとなりました。

「私たちの目的は、少なくともワクチンができるまでは、ウイルスを完全に排除することです。その目的は変わりません」

「ホテルの検疫システムを信頼できるところまで来ています 」と彼は言います。

「あらゆる変異種が常に出現するなか、その都度対応するのは現実的ではありませんし、持続可能でもありません」
Public health physician Associate Professor Nathan Grills at the University of Melbourne.
Dr Grills says the B117 lineage strain of coronavirus is already likely in many countries, it’s just the UK was the first to detect it. Source: Dr Nathan Grills.
「私たちはCovidを取り巻く大きな問題に注意を集中する必要がありますが、イギリスの変異種はその中の一つではないと思いますし、逆に全体像から目をそらしてしまうことにもなりかねません。イギリスの変異種はパンデミックの最大の部分とは言えないでしょう」

パーニス博士は、「私たちにはオーストラリアの人々を国に連れ戻す義務がある」とし、そのためには検疫システムを可能な限り効果的なものにすることが重要であると述べています。

これは多方面からのアプローチであるとし、外科用マスクよりも優れたN95マスクの使用すること、可能な限り最高のトレーニングと経験を持つスタッフを利用すること、対人交通量と感染を最小限に抑えること、飛行前の検査、乗務員の監視、発生したアウトブレイクに対応するためのコンタクトトレーシングを確実に行うことなどが含まれます。


パーニス博士は「コミュニティとして、国家として、地球として、私たちはパンデミックについて膨大な量を学んできました」とし、2021年を前向きに考えていると言います。

「世界中の政府の優先事項は、このパンデミックに大きく影響されると思いますし、その中には良いこともあるでしょう」

「この12ヶ月間、私たちは借金だけでなく、知恵と経験を蓄積してきました。それが私たちにとって良い兆しになると思います」

 

オーストラリアでは、他人から1.5メートル以上離れていなければなりません。お住まいの州における集まりの人数制限をご確認ください。風邪やインフルエンザの症状が出ている場合は、家に留まり、医師に電話して検査を手配するか、1800 020 080のコロナウイルス健康情報ホットラインに連絡しましょう。 

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Published 29 December 2020 5:47pm
Updated 12 August 2022 3:10pm
By Jarni Blakkarly, Caroline Riches
Presented by Yumi Oba


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