オーストラリアに住む難民・移民女性の3分の1が家庭内暴力や家族内暴力を経験しており、中でもテンポラリービザを持つ女性は、その移民という立場から、より多くの虐待を受けていることが、新たな研究で明らかになりました。
モナッシュ大学の「マイグレーション・アンド・インクルージョン・センター」と、移民・難民女性の連合体である「ハーモニー・アライアンス」による報告書は、この種のものとしては初めてで、30日のナショナル・プレス・クラブで発表されました。
この研究ではオーストラリア国内の1,392人の移民・難民女性を対象に、安全に関する問題を調査。その内容には家庭内・家族内暴力(DFV)、雇用・経済的安定、被害、制度や警察への信頼などが含まれました。また、COVID-19の流行によって女性の経験がどのような影響を受けたかについても調査されました。
調査によると、回答者の33%が何らかの形でDFVを経験しており、支配的な行動(91%)、他人や所有物に対する暴力(47%)、身体的・性的暴力(42%)が最も多く見られました。
これらの女性の大多数は、複数の場面で、複数の形態の被害を経験したと言います。しかし、研究者たちは、強制的なコントロールをめぐる証拠を確立するのは「複雑」であると指摘しています。

Sudanese-Australian lawyer and human rights advocate Nyadol Nyuon. Source: Women's Agenda
強制的なコントロールとは、パートナーを友人や家族から孤立させ、行動を制限し、監視するような意図的な虐待のパターンと定義されています。
ハーモニー・アライアンスのニヤドル・ニュオン議長によると、今回の調査は、「移民・難民の女性に影響を与えるような政策や実務プロセスのために必要な確かなデータを作成するため」に実施されたと言います。
また調査は、今月、2日間にわたって開催される「全国女性安全サミット」に先立って行われたもので、このサミットでは政府や関係者が一堂に会し、女性に対する暴力を減らすための次の国家計画を策定します。
今回の調査結果から、ビザの有無や宗教など、幅広い層の女性の経験を考慮し、虐待の定義を拡大する必要があると、研究者らは述べています。
同サミットに向けて、この研究は「特定の人口とその経験に耳を傾けることが絶対的に必要であること」を示していると、研究の筆頭著者、マリー・セグラーブ准教授はSBSニュースに語りました。
パンデミックで初めての虐待
調査によると、DFVを経験した17%の人が、COVID-19のパンデミック(昨年3月から11月の間に計測)中に初めて経験したと回答。23%は虐待がより頻繁になった、また15%の人は虐待がより深刻になったと答えています。
今回の調査では、DFVは、現在または過去のパートナーによって行われることが最も多いこともわかりました。しかし、深刻なのは、回答者が複数の加害者を報告したケースだとセグラーブ准教授は言います。35%が主な加害者は家族だと答え、23%が義理の家族だと答えました。
「また、重要なのはDFVが現在または過去の親密なパートナーだけによって行われるものではないという理解を深めることです。DFVは主に男性によって行われますが、家族や義理の家族によっても行われていることが今回の調査で明らかになりました」
このような認識を深めることで、移民・難民の女性は助けをより求めやすくなったり、支援策に影響を与える可能性があると研究者は述べています。
テンポラリービザ保持者にリスク
今回の調査では、全国規模の調査としては初めて、支配的な行動の定義を、ビザの有無など、特に移民に関するものまでに拡大されました。
1,392人の回答者のうち、781人はオーストラリア市民。非市民のうち367人は永住者、229人はテンポラリービザ保持者で、16のビザカテゴリーに分かれていました。
最も多かったビザの種類は、学生ビザまたはトレーニングビザ(プライマリーまたはセカンダリーホルダー)、ブリッジングビザ、配偶者ビザ、スキルド労働者ビザ、人道・難民ビザの女性でした。
調査によると、テンポラリービザ保持者の40%の女性がDFVを経験したことがあると回答しており、これはオーストラリア市民の32%、永住ビザ保持者の28%と比較すると、高いレベルであることがわかりました。
テンポラリービザ保持者が最も多く経験した強制的なコントロールには、退去強制やスポンサーシップの撤回をほのめかされること、家族のビザ取得やオーストラリアへの渡航阻止などが挙げられます。
セグラーブ准教授によると、加害者はビザのステータスを、支配するメカニズムとして利用していると言います。
「つまり加害者は、『これをしなれければ国外追放にする』などと言っているのです」
また、一貫して問題となっているのは、子供がオーストラリアの市民権を保持している一方で、母親が持っていないケースです。セグラーブ准教授によるとこのような状況下で「お前は出て行け、子供は残れ 」と脅されている人は多く、回答者の25%がこのような脅しを経験したと述べています。またオーストラリアでのビザ権利について自信があると答えたのは、わずか22%に留まりました。
セグラーブ准教授は、移民に関連した支配的なコントロールがどのように発生しているのかを質問し、記録することが不可欠だと述べています。
「(DFVに関連した政府の)システムはとても複雑であり、それは『DFVを経験したら、あなたをサポートします』といった明確なものではありません」
「システムがいかに複雑であるかを理解し、それがDFVにまつわる障壁となっていることを理解することがとても重要です」
内務省の広報担当者は、SBSニュースに対し、連邦政府は今後4年間で、女性とその子どもに対する暴力の防止と対応のために11億ドルを投じていると、声明で述べました。
「これは連邦政府が『女性とその子どもに対する暴力を減らすための国家計画2010-2022』のために提供した3億4,000万ドルと、パンデミックの初期にコミットしたCOVID-19ドメスティック・バイオレンス対応パッケージの1億5,000万ドルに加えてのものです」
「これにより、2013年以降、女性の安全に対する政府の投資額は20億ドルを超えました」
広報担当者によると、政府は直近の予算で、DFVを経験しているテンポラリービザ保持者をさらに支援するために250万ドルを投資し、「DFV専門のサポートチームを介して、新しいビザサポートと調整機能を内務省内に設置した」とのことです。
「DFVサポートチームは、テンポラリービザ保持者のサポートに加え、データやフィードバックを収集・分析し、オーストラリアにおけるDFVの被害者をさらにサポートすることを目的とした政策イニシアチブに反映させます」
虐待と機関に対する信頼
DFVを経験した52%の人が、誰かに相談したと回答しました。しかし、この調査では、ほとんどの回答者にとって宗教は日常生活の重要な一部であるにもかかわらず、宗教指導者を相談できる相手として認識している人はほとんどいませんでした。
また若年層の女性は、高齢層の女性と比較して、宗教施設への信頼度が低いとも回答しました。
18歳から29歳の女性は、「警察の正当性」についても最も低いと回答し、半数近くが警察への信頼度が低いと述べています。
「誰を信頼してよいかわからない状況下で、女性の声に耳を傾けることは非常に重要です」とセグラーブ准教授は述べています。
また、DFVではない被害を受けた人のうち、約40%が「偏見が原因」と考えており、さらに20%が「偏見が原因かどうかわからない」と回答しています。
「これらの調査結果は、移民・難民の女性たちが、虐待や人種に関連した犯罪を経験し続けていることを浮き彫りにしています」
長期的な支援を求める声
オーストラリアがCOVID-19パンデミックへの対応を続ける中、研究者たちは、特に最も深刻な影響を受けている移民・難民コミュニティの経験を認識するよう訴えています。
報告書によると、2019年に雇用されていた回答者の10%がCOVID-19の影響で職を失い、テンポラリービザ保持者は、永住権保持者や市民権保持者よりも苦難を経験しています。
また家庭内暴力や家族内暴力への対応については、長期的な対応を考えるようリーダーたちに呼びかけています。
「研究で何度も目にしてきたシステムの不十分さについて、テンポラリービザ保持者からも多数の指摘がありました」とセグラーブ准教授は述べています。
また、ハーモニー・アライアンスのニヤドル・ニヤドル議長は、移民・難民コミュニティに「実質的」な変化を求めるとしています。
「私が懸念していることは、定住への対応が初期段階に留まり、一時的な問題にばかり目が行くことです。人々が安心でき、自分の居場所と感じられるようなコミュニティを確保し、自分や子供たちが意味ある生活を送られるようにするために必要な本質的な変化に目を向けていないのです」。
Additional reporting: David Chiengkou
あなたやあなたの知り合いが、性的暴行、家族や家庭内暴力の影響を受けている場合は、1800RESPECT(1800 737 732)に電話するか、をご覧ください。緊急時には 000 に電話してください。
家族や家庭内暴力を受けている移民・難民の女性は、inTouch, the Multicultural Centre Against Family Violence(1800 755 988)に連絡するか、をご覧ください。
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