今年8月、政府の機密情報に関する報道を巡って、公共放送ABCに強制捜査が入り、さらに先月21日には、主要新聞各紙が一面を黒塗りにした朝刊を発行。ここ最近オーストラリアでは、『報道の自由』を守るための動きが活発化しています。
そんななか、"Truth, Power and a Free Press(真実、権力、報道の自由)"と称された展覧会が今月15日、キャンベラの旧国会議事堂で始まりました。この展覧会は、SBSのデジタル・クリエイティブ・ラボ部門が、オーストラリア民主主義博物館と共同制作した、音響・映像のインスタレーションです。展示では、ジャーナリストへのインタビューを通して、民主主義におけるメディアの自由の重要性を訴えています。
この展覧会は、SBSの討論番組Insightで進行を務めるジェニー・ブロッキー氏をはじめ、シニアジャーナリストでSBSラジオArabic24のホストを務めるガッサン・ナコール氏らが参加。ジャーナリストとしての使命や責任を果たすことの重要性を訴えています。

SBS journalist Ghassan Nakhoul Source: SBS
ジャーナリストのナコール氏は、レバノン出身。1989年にオーストラリアへ移住しました。内戦が泥沼化していた当時のレバノンでは、政権に批判的だった数多くのジャーナリストが暗殺されたと語ります。
「執筆した記事が当時の政権に批判的だという理由で、彼らは暗殺されたのです」
「一個人が自らの命を顧みずに、真実を公にするという姿勢に、私は心を強く打たれました」
オーストラリアへ移住後、調査報道に焦点を絞って取材を続けていたナコール氏は、ある事件に巻き込まれます。

Curator Holly Williams. Source: SBS News
2001年、ナコール氏は、人の密入国を請け負っている人物に電話取材をすることに成功しました。その後、その人物はオーストラリアへの入国を試みた際に逮捕、起訴されました。
誰がその密入国請負業者に関する情報をナコール氏に提供したのか、検察側はナコール氏側に追及を強めました。しかし、彼は、情報源についてはジャーナリストとしての守秘義務があるとし、証言を拒絶。検察側は、最長で5年収監される可能性を示唆し、証言するよう強い圧力をかけたとナコール氏は語ります。
「私は一生、取材源を明かさず、そのまま墓に入る覚悟があります」
「取材源の秘匿については、繰り返し強調されるべきです。この権利は、国の法律で明文化されるべきです」
展覧会では、オーストラリアのメディアの歴史において、重要な品々が一般公開されています。例えば、ヘンリー・パークス氏によって使用された印刷機、戦場カメラマンとして活躍したニール・デイビス氏が使用した防弾ベスト、さらに、エジプトで収監されていたジャーナリスト、ピーター・グレステ氏が秘密裏に家族に送った手紙などです。
ホーリー・ウィリアムズ氏(オーストラリア民主主義博物館 シニア・キュレーター)
「民主主義を取り巻く現状について、より多くの人々に知ってもらい、そしてこの問題深く考えるきっかけを持ってほしいと思います。メディアの自由は、民主主義の存立基盤です。」
グローバル・トラスト・インデックスによる最新の調査によりますと、メディアへの信頼度は50%を下回っており、メディア不振が広がっているといっても過言ではありません。
豪主要新聞各紙は先月21日、大部分を黒で塗りつぶし、極秘のスタンプを押した一面記事を揃って掲載しました。国民の『知る権利』が脅かされているとして、政府に対して『報道の自由』を守るための法改正を訴えています。
内部告発者の保護、メディア機関への強制捜査に関する法改正などについて、現在、連邦議会上院で公聴会が開かれています。