Key Points
- サムさん*は冬の間自宅を暖かく保つことに苦労している借家人のひとりです
- 新たな報告書によると多くの方が同じ状況に直面しています
これまで賃貸暮らしを続けてきたサムさん*は、真冬や真夏は快適に暮らすことができず、暑さと寒さの戦いになることを熟知しています。
過去に借りた物件も、この季節を快適に過ごすという意味ではどこも「ほぼ同じ」であったと評価します。しかし、シドニー都市部にある現在の賃貸アパートは、古いレンガ造りで、今年の冬は「非常に寒かった」と語ります。
特にアパートの断熱の面では「かなり不足している」と言います。
実際、最近天井が崩れて、むき出しになったとき、屋根に断熱材が入っていないことを知りました。

The ceiling of the property Sam* rents recently collapsed, and showed there was no insulation in the roof. Source: Supplied
サムさんは、できるだけ暖かく過ごせるよう、エネルギー効率の良い方法を取り入れて工夫していると話します。例えば、熱を逃がさない遮熱カーテンを自費で設置したり、室内では重ね着をしているそうです。
しかし、今年の冬は、従来の方法で暖かく過ごすのは「ほぼ不可能」であったと言います。
夏場は、使っていない電化製品の電源を抜き、電気代をセーブすることを心がけてきましたが、今年の冬は長時間稼働させなければならなかったため、それができなかったと説明します。
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冬の寒さに震えるテナント
このような経験をしたのはサムさんだけではありません。
擁護団体ベターレンターズが6月から7月にかけて70以上の賃貸住宅の温度を追跡調査した新たな報告書によると、その多くが、日常的に「安全」と言える温度レベル以下であることがわかりました。
この報告書では、世界保健機関(WHO)の基準として、健康的な室内温度の最低値を18℃と定めています。
追跡調査した物件では以下の頻度で室内温度が18℃を下回っていました。
- ニューサウスウェールズ州 85.1 %
- ビクトリア州 80.2%
- 南オーストラリア州 79.2%
- 西オーストラリア州 56.5%
- タスマニア州 91%
- クイーンズランド州 28.6%
- ACT 88.3%
- ダーウィン 0%
- アリススプリングス 89.5 %
一方、エネルギー効率の高い住宅を所有する比較のオーナーグループでは、18℃を下回ることは稀で、その発生率は5%以下に留まりました。
またカビの繁殖原因でもある湿度もモニターされました。
報告書によると、最も健康的な相対湿度は40~60%で、70%を超えると、特に換気が十分でない場合、結露やカビが発生しやすくなると分析していますが、調査に参加したニューサウスウェールズ州の物件の平均相対湿度は約70%でした。ビクトリア州、南オーストラリア州、西オーストラリア州、タスマニア州、クイーンズランド州の住宅では、いずれも65%を超え70%未満を記録しました。
一方、ACTの住宅の平均相対湿度は60%弱で、ダーウィンとアリススプリングスではそれぞれ53%と42%を記録しました。
「咳や鼻詰まりで起きる」
この報告書は、オーストラリア政府に対して、賃貸物件のエネルギー効率に関する最低基準を導入し、借家人をより保護するよう求めています。
「借家人は、病気になりやすいこと、エネルギーコストに常に悩まされていること、カビや湿気との終わりのない戦いについて話してくれました」と、説明するのは擁護団体ベター・レンターズのジョエル・ディグナム代表。
しかし、多くの人は、「寒い家」か「高い請求書」のどちらかを選んでいるわけではなく、結局は両方抱えていると言います。
「この調査の対象となった住宅の多くは、標準以下であり、高価で効率の悪いヒーターを稼動させることを選択しても、暖を取ることができませんでした」

The report by Better Renting calls for Australian governments to introduce minimum energy efficiency standards for rental properties to better protect renters. Source: AAP / James Ross
調査に参加した人のなかには寝室が12℃以下となり、寒さのあまりに「咳や鼻詰まりで起きた」と話す人もいました。
「バスルームやどの寝室でもカビが繁殖していました。湿った壁に生えていることもありましたし、そのせいで私物を捨てなければならないこともありました」と、別の参加者は説明します。
これまで暑さ対策に焦点が当てられてきた豪住宅
アデレード大学で「オーストラリアン・センター・フォー・ハウジング・リサーチ」を率いるエマ・ベイカー教授によると、オーストラリアの住宅ではこれまで暑さ対策に焦点が当てられ、十数年前は、寒さ対策が話題になることはありませんでした。
また昔の住宅は、安い電気代を基準に建てられていたと説明します。
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このほどベター・レンターズが行った研究のサンプルは少数でしたが、これは孤立した問題ではないと教授は語ります。
バーカー教授は、1万5,000の賃貸世帯の住宅状況に関するデータを収集した2020年の研究を主導しましたが、そのうちの約25%の家庭が、冬は「寒い」と報告していると話します。
*プライバシーを守るため仮名を使っています
- With AAP.
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