スポーツでの子どもの虐待、日本は抜本的な改革を 報告書

「数え切れないほど叩かれました」と振り返る若きアスリート。国際的な人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが調査報告書を発表しました。

There calls for the host of the 2021 Olympics to take urgent action against child abuse in sport.

There are calls for the host of the 2021 Olympics to take urgent action against child abuse in sport. Source: Dateline

日本では18歳未満の子どもがスポーツのトレーニング中に、身体的、性的そして言葉による虐待を受けていることが、国際的な人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが20日に発表した調査報告書で指摘されました。報告書は、日本が来年の東京オリンピック・パラリンピックの開催国であることから、抜本的な対策を行い各国のモデルになるよう提案しています。

日本で行われているスポーツ50競技以上について調べたこの報告書では、オリンピック・パラリンピック出場者などエリートアスリートを含む800人以上に対し、子どものときの経験などについて聞き取り調査を行いました。その結果、顔面を殴られたり、蹴られたり、物でぶたれたなどの声が寄せられました。

24歳以下の回答者は381人で、このうち22%が、けがをしているときにトレーニングを強要されたり、罰として過酷なトレーニングを課されたことがあると答えました。


鹿児島県のある22歳のバレーボール選手は、チームが試合に負けた場合、罰として自宅まで走って帰る、または長時間トレーニングすることを求められたと回答しています。

回答者全体の4分の1が、大量の食事を無理矢理食べさせられたと答えました。逆に全体の7%が、競技中に十分な食べ物や水を与えられなかったとしています。

高校球児だったショウタさん(仮名)は体重を増やすために無理矢理食べ物を食べさせられたことがあると回答しました。「野球をした後、(ヘッドコーチが)グラウンドに食べ物を持ってくるように指示し、私たちは練習のあとにそれを食べるのが常でした」。

「食べたくなくても、食べるように命令されました。食べないと、やる気がないとされました。全国大会に出場したいなら、全部食べきる必要がありました」。

さらに6%が、トレーニングに遅れたことへの罰などとして髪を短くしたり、丸刈りにされたと答えました。神奈川県でバスケットボールをしている18歳の高校生は、ジュニアチームのメンバーが問題を起こした場合、頭を丸刈りにされる可能性があると回答しています。

「遅刻したり、(練習に必要な)何かを忘れた場合は、『見せしめ』として丸刈りにされることがあります」。

体と心への暴力

このような回答が詳細にまとめられた調査報告書は67ページに及びます。日本でスポーツにおける体罰、それがエリートスポーツや連盟、学校を問わず珍しいことではなかった過去を浮き彫りにしています。


根深く残る日本での体罰の慣習に対しては、これまでの10年間で厳しい視線が向けられています。日本が2020年夏季オリンピックの招致活動を行っていた2013年、高校生がバレーボールのコーチから顔を13回平手打ちされる16秒の動画が大きく取り上げられました。


また同じ年には、柔道女子日本代表の園田隆二前監督が選手から暴力行為などを告発されるなど、選手から告発されたコーチの辞任などが続きました。柔道女子日本代表というトップレベルでの体罰問題の告発は異例で、スポーツ界に衝撃を与えました。


コーチから虐待を受け、自ら命を絶つ若き選手の存在も報告されています。当時17歳で未来のあった高校バレー部員の新谷翼さんは2018年7月に自ら命を絶ちました。新谷さんの遺書には、「バレーボールも生きることも嫌になりました」と書かれていました。

新谷翼
これらの事件やメディアの報道などが2010年代のさまざまな改革につながりました。2013年には「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」が出され、2018年には「スポーツ指導者のための倫理ガイドライン」が制定されました。


しかしヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本の対応は十分ではないと指摘しています。子どもたちを虐待から守るには、各スポーツ団体がそれぞれの対応を行うよりも、全国的な法律を作る必要があると主張しています。

スポーツ法の専門家で、今回の報告書でヒューマン·ライツ·ウォッチに協力したスポーツ選手の国際的な労働組合「ワールドプレイヤーズ」(世界選手会)の理事を務める、山崎卓也弁護士は、「スポーツは健康や奨学金、キャリアなどの利益をもたらすこともありますが、虐待被害者は苦しみと絶望を経験することがあまりに多すぎる」と語っています。

そして「虐待事案の対処がこれほど難しい理由の一つは、選手が声を上げることが奨励されていないからです」と言います。

日本だけではないスポーツでの虐待

子どものアスリートへの虐待は日本だけの問題ではありません。最も広く知られているものの一つに、米国の女子体操オリンピックチームで体操選手に対して数十年間にわたり行われていた性的虐待があります。虐待を行っていたオリンピックチームの元医師、ラリー・ナッサー受刑者には禁固175年の有罪判決が下っています。

虐待を受けていた選手の中には、オリンピック金メダリストのシモーネ・バイルズ氏やギャビー・ダグラス氏、マッケイラ・マロニー氏などがいます。

米ニューヨークタイムズ紙によると今年6月26日には、アスリートとして身体的そして言葉の暴力を受けていたとして当局に申し立てを行っていた韓国のトライアスロン元女子代表選手、チェ・スクヒョン氏が自殺しています。


また英国では、英BBCが今月明らかにしたところによると、2016年以降、スポーツコーチが自分の担当する16~17歳の未成年と性的な行為を行っていたケースが160件以上ありました。このニュースが公開される前には、英国の体操女子代表のキャサリーン・ライオンズ氏が、自身が10歳のときにコーチに殴られたと話したことがメディアに取り上げられました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチでグローバル・イニシアチブ担当ディレクターを務めるミンキー・ワーデン氏はこう語ります。

「子どもを守るために断固とした行動をとることは、日本の子どもたちに対して、子どもたちの健康やウェルビーイングのほうがメダルよりも大切だ、というメッセージを送ることになります。また同時に、虐待を行っている指導者に対し、そうした行動はもはや許容されないのだと告げることにもなります」

「もし日本が今行動を起こせば、他の国がスポーツにおける子どもの虐待を撤廃するためのモデルになることができます」。


 


 

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Published 27 July 2020 5:37pm
Updated 27 July 2020 6:00pm
By Emily Smith
Presented by Junko Hirabayashi


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