選挙キャンペーンは、一瞬にして変わることがあります。
少し前まで、大統領選の注目は、ジョー・バイデン大統領の81歳という年齢と大統領としての適性への懸念に向けられており、討論会でのパフォーマンスはその懸念を払拭するどころか、強める結果となりました。
しかし、誰が共和党のドナルド・トランプ候補に対する暗殺未遂を予想したでしょうか。この事件は選挙戦の流れを大きく変え、アメリカの政治情勢の分裂を浮き彫りにしたと専門家は述べています。
アナリストたちは今、この歴史的出来事が、11月の大統領選挙にどのような影響を与えるか、注目しています。
暗殺未遂はトランプのチャンスにどう影響するか?
オーストラリア国立大学(ANU)で、インターナショナル・リレーションを専門とするウェスリー・ウィドマイアー教授は、暗殺未遂は、候補者のチャンスを高めることを歴史が示していると、SBSニュースに語りました。
ウィドマイアー教授は、1981年に暗殺を免れたロナルド・レーガン元米大統領の例を次のように挙げています。
「レーガンは調子があまりよくなく、彼に対する同情が渦巻いていました。」
彼が病院で「君たちがみんな共和党員だといいんだがね」と医師たちに冗談を言っのは有名な話です。これで人々はレーガンの周りに集まってきました。
ウィドマイアー教授は、今回の選挙戦において、トランプ氏が過去と比べて自制心を見せていたことから、より多くの同情を集めるのではないかと予想しています。
また暗殺未遂当時、シークレットサービスに支えられながら、支持者たちに向かって拳を振り上げていたトランプ氏の行動は、自分を英雄として描こうとするためではないかとの考えも示しました。
「選挙日までまだ3ヵ月近く」
しかし、別の意見もあります。
同じくANUでアメリカの政治を専門とするジョン・ハート氏は、選挙は大接戦になるだろうとの考えをSBSニュースに示しています。
「今回の暗殺未遂事件が大きな影響を与えるとは思いませんし、長期的には特に目立った影響を与えるとも思いません。」
「アメリカの政治は二極化していて不安定です。民主党側を見ても、選挙戦が混乱しているのがわかります。」
「選挙日までまだ3ヵ月近くあります。」
バイデン支持者はトランプに切り替える?
ハート氏は、現時点ではバイデン支持者がトランプ氏に投票先を変えることはないとする一方で、同情が未決定票を若干動かす可能性はあると述べています。
トランプ氏は2020年1月6日、支持者の一部による国会議事堂の襲撃と暴動を奨励したとして非難されましたが、ハートとウィドマイアーの両氏は、銃撃を受けたトランプ氏が社会的混乱をあおる可能性はあるものの、逆に「規律ある選挙運動」を行うことで、有利になる可能性を指摘しています。

Donald Trump raises his fist in the air while held by secret service agents. Source: AAP
「反トランプのレトリックを使うことは、今回の銃乱射事件というレンズを通して見られる可能性があります。暴力行為とみなされる可能性もあります。」
「これから数週間、民主党が反トランプキャンペーンを展開するのは非常に厳しくなるでしょう。」
ロイターの世論調査によると、今回のテロに先立ち、20%以上の有権者が「支持する大統領が決まっていない」と答えていました。
「事態は悪化する」
スミス氏は、今回の事件が選挙の行方を大きく左右すると考えています。
「これは我々か、彼らかの選挙です。相手を競争相手ではなく、アメリカへの脅威と見なすべきだという感覚が生まれるでしょう。」
「ですから残念ながら、少なくとも短期的には、これは事態を悪化させるだけだと思います。」
またスミス氏は、さらなる暴力の可能性を否定しませんでした。
「このテロが起きたということは、また起きる可能性があるということです。」
「この銃社会では、ほんの数人の行動によって政治システム全体にこのような大混乱をもたらすことができるのです。」
アメリカの政治家の意見は?
ジョー・バイデン米大統領はこの銃撃事件を非難し、トランプ大統領は平和的に集会を行えるべきであったと述べています。
「この国に暴力の場所はありません。」
「この国を団結させなければならない理由のひとつです。私たちはこのようなことを許すことはできません。」
トランプの支持者の中には、この事件をめぐり、バイデン氏を非難している者もいます。ある共和党議員はXへの投稿で、大統領は「暗殺を扇動している」と非難しています。
トランプの副大統領候補に挙がっているとされるJDバンス上院議員は、バイデン陣営の暴言が今回の事件に直接つながったと述べいます。
またバラク・オバマ元大統領やジョージ・W・ブッシュ元大統領、ビル・クリントン元大統領、ジミー・カーター元大統領はいずれもこの暴挙を非難し、トランプ氏に怪我がなかったことに安堵していると述べています。
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