オーストラリア人権委員会(AHRC)は、独立調査の結果、体操界には「許容できないリスク」をもたらす虐待や、「どんな犠牲を払っても勝たなければならない」といった虐待的文化が存在することが明らかになり、若い女性や少女の安全とウェルビーイングのために、体操というスポーツの大幅な改革を提言しました。
報告書では、選手に危害や虐待のリスクをもたらす否定的なコーチングや、長期的な摂食障害を引き起こす可能性のあるボディシェイミング(外見に対する批判)、そしてこのような虐待や危害の訴えに対する適切な対応のなさについて詳述しています。
委員会は2020年8月、同スポーツにおける虐待の訴えを繰り返し受けたことにより、ジムナスティックス・オーストラリアと協力し、調査を実施。オーストラリア体操界のメンバー57名にインタビューを行ったほか、138件の文書が提出されました。
体操選手の中には、不適切なコーチングにより、怖くて声を上げられなかったと話す人もいます。
「コーチは自由な練習が許されていて、自分が適切だと思うことを何でも選手に押し付けることができました」とある体操選手は言います。
「体操競技で若い女性選手が成功するにはコンプライアンス、罰、制限が必要だと信じ込まされています」と別の選手は言います。
「多感な年頃の若い選手たちは、コーチのどんな要求にも従わなければならないと教えられています」。
「白人文化」
体操にかかわる人たちからは、このスポーツには文化的な多様性が欠けているという声も聞こえ、ある選手は「白人文化」であるとまで言います。
「なかには肌の色による子どもの扱いの違いについて話している人たちもいる」と選手は続けます。
また別の選手は「白人がゴールデンボーイと扱われる一方で、黒人選手は他の選手が受けないようなネガティブな扱いを受けている」とも証言しています。
偏見は障がい者にも及んでいるようで、このスポーツは「包括的ではない」とある選手は語ります。
「複数のジムでは、障がい者を含めた、全アビリティのクラスを設けている一方で、私たちが関わったジムでは、特別なニーズを持つ参加者は、非常に古く、限られた設備を持つ別の部屋に入れられていました」
この調査では、保護者からも、クラブ側が公表しない子供たちのウェルビーイングについて懸念の声が寄せられました。
「ジムナスティックセンターとは、一方的な関係のように感じます。レッスン費やファンドレイジングなどを私から得る一方で、それに見合う対応を受けていません」とある保護者は語ります。
「子供がメダルを取れば、それは満足いくでしょう。しかし、私はメダルのためにやっているのではなく、子供が元気であればそれでいいんです」
調査を担当した性差別委員会のケイト・ジェンキンス氏は、自らの経験を語った人々の勇気を称えるとともに、「極めて若い女性アスリートの割合が高いことが、体操界特有のリスクのひとつとして強調された」と述べています。
オーストラリアで体操に参加している約23万1,000人のうち、77%が女性で、91%が12歳以下の子供であることがわかっており、また体操は、5歳から8歳の女の子にとって、水泳に次いで人気のあるスポーツです。

Sex Discrimination Commissioner Kate Jenkins said the abusive and competitive culture of gymnastics was putting young people at risk. Source: SBS News
ジェンキンス氏は、若者を危険にさらすスポーツの虐待的な競争文化を非難。
「今回の調査では、体操選手や元選手が、自分の安全や健康よりも、すべてを犠牲にして勝利を得ることが優先されていると感じていることがわかりました」
「委員会は、人権を侵害することがスポーツで成功するために必要であるとは認めません。選手の人権が尊重され、保護されてこそ、成功がもたらされるのです」と述べています。
「男女平等の道を切り開く」
一方で、この報告書は「オーストラリアの体操界が、子どもの安全と男女の平等をリードする機会にもなる」とジェンキンス氏は述べており、
報告書の概要にも「若い女性がどのように行動し、どう見られるべきかという固定概念に挑戦するのは」体操界にかかっていると記されています。
「体操選手は常に強く、力強く、有能でありました。体操界は世界的なスポーツとしてこの事実を認識し、称えるべき時が来ているのです」
今回明らかになった12の勧告には、コーチング方法の変更をはじめ、コーチの説明責任や虐待に関する教育の改善、摂食障害への対応と予防、虐待に関するすべての問題についての外部調査、さらにはコーチが18歳未満の選手とソーシャルメディアで関わることを禁じることなどが盛り込まれています。
また、過去に虐待を受けた可能性のあるすべての体操選手に対して、正式な謝罪を行うことも記されました。

The AHRC has recommended major reform in the sport of gymnastics after an independent review uncovered repeated claims of abuse. Source: AFP
「やるべきことはもっとある」
ジムナスティック・オーストラリアは、自らの体験を語った人々に感謝するとともに、虐待を経験したすべての人々に声明を通じて、謝罪。
「ジムなスティック・オーストラリアは、このスポーツに参加する上で何らかの形で虐待を受けた経験のあるすべての選手とその家族に対して、全面的に謝罪します」
ジムナスティック・オーストラリアは、報告書に含まれた12の勧告をすべて採用するとし、理事会が対応を監督することも明らかにしました。
「我々は、このプロセスの一環として、州・テリトリーの協会、クラブ、アスリート・コミュニティ、そしてスポーツ・インテグリティ・オーストラリアと協力することを楽しみにしています」
「近年、子どもの安全や選手のウェルビーイングに関する方針や教育、選手並びにコーチへのサポート体制を改善するための重要な対応が行われてきましたが、やるべきことはもっとあります」
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