「非常に腹が立っている」と話すのは、2020年に夫と母親とともにロンドンに旅行する予定であった、ゴールドコースト在住のタペンス・ワットさん。
ワットさんには現在、ヴァージン・オーストラリア航空のフライトクレジット、4000ドル分が手つかずのままになっていますが、それを近い将来使えそうにもないと話します。
ヴァージン・オーストラリアは現在、フィジーとバリ島のみにしか飛んでおらず、いずれもワットさんには興味のない場所です。
ワットさんは、他国へのフライトが再開されるまで「喜んで待つつもりであった」と話しますが、問題はこの4000ドル分のクレジットが7月で期限切れとなることです。これについて航空会社からの「情報はゼロ」だと言います。
「私は看護師なので、パンデミックの苦労は間違いなく理解しています」と、ワットさんはSBSニュースに語りました。
「しかし、航空会社のコミュニケーションと配慮の欠如については、言い訳できない」と怒りをあらわにしました。

Tuppence Watt (right) with mother Davina Hanson and husband Benjamin Watt at Disneyland in Paris before the pandemic. Source: Supplied
「航空会社は、払い戻しをするか、最初に予約したフライトと同じ経路で使えるようになるまでクレジットを延長する必要があります」
このような経験をしているのはワットさんだけでなく、海外旅行を熱望する何百人ものオーストラリア人が、高額の航空運賃、「腹立たしい」カスタマーサービス、限られたルート、そして直前のフライト変更・キャンセルのために、海外旅行に行くことができないという状況です。
高い航空運賃
オーストラリア旅行業協会のディーン・ロングCEOによると、レジャーを目的とした旅行はまだ回復しておらず、現在旅行の最大の原動力になっているのはVFR(Visiting friends and relatives、友人・親戚訪問)であると話します。
「今日の観光産業を実質的に支えているのはVFR市場とビジネス旅行である一方で、レジャー旅行は半年ほど遅れています」
ヴァージン・オーストラリアは現在、VFRの需要が高い路線を再開していませんが、カンタス航空はシンガポール、ロンドン、ロサンゼルスなどVFRに特化したいくつかの都市へのフライトを再開しました。
ウェブジェット社のデータによると、シドニー-シンガポール間の平均往復エコノミー航空運賃は19%下がりましたが、他の2区間では違う現象がみられます。
シドニー-ロンドン間の平均往復エコノミー航空運賃は30%上昇し、シドニー-ロサンゼルス間については32%上昇しました。

Average ticket price. Source: Webjet
カンタス航空は、オークランド、バンコク、ダラス、ヨハネスブルグ、バンクーバーといったVFRの目的地へのフライトも再開しましたが、Webjet.com.auではこれらの目的地の2022年1月の予約量が十分でなく、正確な比較はできていません。
航空燃料価格の高騰と国際線に就航する格安航空会社の不足が、価格上昇の主な要因であるとロング氏は述べており、これは一時的な不具合にすぎず、「ニューノーマルではない」と付け加えました。
「しかし、オーストラリアや海外からの旅行者の需要が回復すれば、それも変わってくるでしょう」
「少なくとも今後12ヵ月間は、2019年の時点よりも高い価格帯が存在することになります。そして、2023年、2024年と進むにつれて、それらはパンデミック以前のものと同等になるでしょう」
カンタス航空のアラン・ジョイスCEOは、21日月曜日、チャンネル9で、現在入手可能なバーゲンの数々を紹介しました。

CEO da Qantas, Alan Joyce. Source: AAP
「300ドル以下でフィジーへ、500ドル以下でシンガポールに行けます。ロサンゼルス行きの航空券は1,000ドル以下になっています...」
「存在しない」接客
リンレイ・ケイシーさんは、アメリカ生まれの夫と一緒にアメリカにいる夫の家族を訪ねるために、カンタス航空のダラス行きの便を予約しましたが、旅行前にいくつか質問がありました。
「4回電話したのすが、その都度数時間待たされ、切られたのです」とSBSニュースに伝えました。
電話によるカスタマーサービスがないため、ケイシーさんはカンタス航空のフェイスブック・メッセンジャーを使い、連絡を取りましたが、32日以上経った現在も、返信待ちです。
「本当に腹立たしいし、イライラします」
ケイシーさんのケースは、決して特殊なものではありません。同航空会社のフェイスブック・ページへのユーザー投稿には、「情けない」「存在しない」「ばかばかしい」といった接客に関するコメントが溢れています。
カンタス航空の広報担当者は、SBSニュースへの声明の中で、その理由を以下のように述べています。
「現在のオミクロン状況により、お問い合わせが急増しており、お客様の待ち時間が長くなってしまったことを心からお詫び申し上げます」
「我々は、数百人の新しいエージェントを訓練し、可能な限り待ち時間を減らすことができるように、より多くの雇用と訓練を続けています」
直前の変更・キャンセル
ラタム航空が、3月予定していたシドニー/オークランド発のチリへのフライトをキャンセルしたことを受け、数百人におよぶ旅行者に混乱と怒りが生じています。ホームページに掲載された声明によると、「業務上の理由から」キャンセルが決断されたと言います。
各国では航空会社を含め、常に旅行政策や優先順位が変更されているため、それがオーストラリアの旅行者にも影響を与える可能性があると、オーストラリア旅行業協会のディーン・ロングCEOは述べています。
旅行の混乱を招く要因は、しばしばオーストラリアの航空会社や政府の手に負えないこともあります。
「現在、航空ネットワークで起きている混乱は、世界各国の政府が強硬な国境政策をとっていることが直接の原因です」とロング氏は述べています。
「ニュージーランドや一部のアジア・ヨーロッパ諸国の政府が続けているロックダウンアプローチにより、タイ、香港、ドバイといった中継ルートのハブ空港を通過する人々の移動が不可能になっています」
最近インドからシドニーに帰国したスワラップ・ティテさんがその例です。
「バンコク経由でムンバイからシドニーへのフライトを予約しました。私が予約した当時、タイは海外観光客の再開を計画していました」
しかしオミクロン株の感染拡大により、計画は棚上げになり、その結果、ティテさんはスリランカのコロンボとシンガポールで長いストップオーバーをする別のフライトの予約を余儀なくされました。
「ムンバイからシドニーへのフライトは、通常、途中降機も含めて20時間くらいかかるんですが、今回は2日半もかかってしまいました」
ロング氏によると、海外旅行に関して、外国や航空会社が安定したリズムをつかむには、今後6カ月から12カ月かかると言います。
クレジットに関する問題
イギリス出身のリブ・ウィルソンさんは、2020年3月に利用するはずだったカンタス航空のシドニー-ロンドン間の往復航空券に2,000ドルを支払いました。
しかし、2020年3月から始まった国境閉鎖により、飛行機は飛ぶことができず、ウィルソンさんはフライトクレジットを受け取りました。そして2021年5月、イギリスにいる家族に、クリスマスに合わえて会いにいくため、同じフライトを再予約しようとしたところ、価格が2000ドルも上がっていることに気づきます。
「価格が大幅に上がっていたため、実質的に元値と同じ金額をクレジットに上乗せして支払わなければなりませんでした 」
「12月に何の説明もなくフライトをキャンセルされ、4,000ドルはクレジットに変換されると言われました」
ウィルソンさんはその後、電話でカンタス航空に連絡を取ることに成功し、全額の払い戻しを約束され、シンガポール航空で新しいフライトを予約しています。
カンタス航空の広報担当者は、「フライトをキャンセルした場合、現金での払い戻しや、クレジットに応じたあらゆるタイプの運賃の再予約など、完全に柔軟な対応が可能」と述べています。
「お客様にお伝えしたいのは、COVID以前よりもはるかに柔軟に予約できるようになったということですが、それでもいくつかのルールがあるということです。他の大手航空会社も同じようなアプローチをとっています」
しかし、ワットさんのように、ヴァージン・オーストラリアの顧客で、ロンドンなど、同航空が運行を止めている場所へのフライトを購入していた多くの人がパニックに陥っています。
「私たちが支払ったものと同じ長距離のルートが、いつ開始されるのか、その情報はありません」と彼女は述べています。
SBS ニュースはヴァージン・オーストラリアにコメントを求めています。
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