世界の8240万人の難民のうち、その15%にあたる1200万人が障がいを持って暮らしています。これらの人々を代表して、東京パラリンピックに挑むのが、難民選手団の選手たちです。
2016年のリオ大会で史上初の難民パラリンピックチームがデビューしたさいには、わずか2名の選手が参戦しましたが、今大会ではその3倍となる6人が出場します。
メンバーは、シリア難民のアリア・イッサ選手(パラ陸上、クラブスロー)、イブラヒム・アル・フセイン選手(パラ水泳)、アナス・アル・カリファ選手(パラカヌー)に加え、ブルンジ出身のパルフェ・ハキジマナ選手(パラテコンドー)、アフガニスタン出身のアッバス・カリミ選手(パラ水泳)、イラン出身のシャフラド・ナサジュプール選手(パラ陸上、円盤投げ)です。
ギリシャ生まれで、シリア難民のアリア・イッサ選手は、パラリンピック難民チームを代表する初の女性アスリートとして歴史に名を残しました。
4歳の時に天然痘を患い、脳に障害を負ったことで、知的・身体的な能力を失ったイッサ選手は、やり投げや砲丸投げ、円盤投げを握ることができない選手のための「クラブスロー」という競技で国際的に活躍しています。

Alia Issa says she is on a mission to empower female with disabilities to become athletes. Source: Getty Images/International Paralympic Committee
彼女がスポーツに出会ったのは3年前。がんによる父親の死がきっかけでした。
国際パラリンピック委員会のインタビューでイッサ選手は、3年前にスポーツと出会えたことは彼女にとって「とても重要なことであった」と述べ、「自分の体や運動能力に自信が持てるようになった」と語りました。
障がいのある女性がスポーツに親しめるようにすることが、『私の使命」とイッサ選手は言います。
「家の中に閉じこもらないで、積極的に活動してください。そうすることで、自立して社会に溶け込めるようになります」。
「足には才能を与えてくれた」
アフガニスタンの難民でパラ水泳選手のアッバス・カリミさんは、生まれつき両腕がありませんでした。しかし彼は2017年の世界パラ水泳選手権のS5 50mバタフライで銀メダルを獲得し、難民として初めてメダルを手に入れました。
カリミさんの障がいと民族性は、アフガニスタンでは標的となり、彼は16歳の時にザグロス山脈を通ってトルコに逃れ、そこで4年間暮らしました。
最終的にはアメリカのフォートローダーデールに落ち着いたカリミさんは、水泳を通じて、人生観が一変したと言います。

Para-swimmer Abbas Karimi. Source: Getty Images/International Paralympic Committee
「神様は私の腕を間違えて取ってしまったが、足には才能を与えてくれたと思っている」と米テレビ局NBCの取材で語っています。
13歳で水泳を始めたときは、疑問を持っていたと明かすカリミさんは、ライフジャケットを着て、プールの長さに沿って25メートルの泳ぎを完成させ、やがてドルフィンキックのストローク技術を身につけると、アフガニスタンの大会で優勝するまでになりました。
水泳は、彼の人生を新たな軌道に乗せたとし、一生感謝し続けるだろうと話します。
「水泳がなければ、私はとても危険な人間になっていたと思います。水泳は私の心を開いてくれました。私の魂です」と自身のインスタグラムに綴っています。
国連難民高等弁務官のフィリッポ・グランディ氏は、このチームがインスピレーションを与え、希望を届けることができると前向きに考えていると言います。
「彼らは、エリートスポーツにおいても、人生においても、難民や障がい者のインクルージョンを推進する真の先駆者であり、彼らの模範が、すべての人にとってインクルーシブで平等な世界に向けて、私たちを一歩前進させてくれることを期待する」と述べています。
スポーツ、人権、亡命申請
無国籍のアスリートは、当初「インディペンデント・アスリート」というカテゴリーでオリンピック・パラリンピックへの参加が認められていました。
スポーツ、文化、政治、人権の交錯について執筆しているウェスタン・シドニー大学のデビッド・ロウ名誉教授によると、国際的なスポーツ大会では、無国籍アスリートの参加の障壁を取り除くことが認識されつつあります。
「社会的、文化的、政治的な存在としてのスポーツの役割は高まっています」とSBSニュースに語りました。
「政治のスポーツへの介入は抵抗されてきました。しかしオリンピックへの難民選手団の導入は、人権やインクルージョンの政治的側面から、オリンピックに直接政治を導入したものだと言えます」
「この現象はスポーツのあらゆる分野で見られます。例えば、サッカーではホームレス・ワールドカップが開催されています。サッカーは世界的なゲームですから、このような取り組みの多くを開拓してきました」。
23日月曜日には、バイエルン・ミュンヘンで活躍するカナダ人サッカー選手のアルフォンソ・デイヴィス選手が、オープンレターで難民パラリンピックチームへの支援を表明しました。
デイヴィス選手は、ガーナの難民キャンプで生まれました。
「あなた方が歩んできた道のりを、誰もが理解しているわけではありませんが、私は理解しています...。あなた方は今、世界で最も勇気のあるスポーツチームです」と綴っています。
またロウ教授によると、無国籍である彼らが亡命を求めるという問題は、難民のスポーツ選手にスポットライトが当てられたときに浮上する、顕著な問題でもあると語ります。
「そのため権力主義の国では、スポーツチームが亡命申請しないように、非常に厳重に管理されているのです」
「そして多くの場合、そのような疑いがかけられると、開催国への入国を拒否されます」
先月、ケニアの元マラソンランナーで、東京難民オリンピックチームのシェフデミッションである、テグラ・ロルーペ氏は、ブリスベンの2032年オリンピック・パラリンピック開催国決定発表前に、オーストラリアが難民に「両手を広げる」よう促しました。
で ロルーペ氏は、オーストラリアに対し、亡命希望者をオンショア並びにオフショアで拘束する政策をやめるよう求めました。

Tegla Loroupe has called on Australia to end its policy of detaining asylum seekers and refugees. Source: IOC
「亡命者をホテルに収容すればするほど、彼らに食事を与え、お金を使うことになり、間違った判断をしていることになる」
「多くの人間は虐げられたからこそそこにいるのであって、助ける機会があるのに、なぜまた虐げようとするのでしょうか」と述べました。
また、他の元アスリートたちも、オーストラリアがより多くの難民再定住の選択肢を検討するよう求める声に賛同しています。
元サッカー選手のクレイグ・フォスター氏とニュージーランドのヘビー級ボクサーのソニー・ビル・ウィリアムズ氏は、5月に行われたニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相とオーストラリアのスコット・モリソン首相の二国間会談の際に、ニュージーランドの町クイーンズタウンを訪れました。
これは人権団体アムネスティ・インターナショナルが支援する、オーストラリアによる亡命希望者や難民の拘留をなくすキャンペーンの一環として行われました。
フォスター氏は、アスリートたちは、スポーツや社会におけるより大きな役割を担っていると考えていると言います。

Sonny Bill Williams and Craig Foster. Source: AAP
「難民のアスリートだけではありません。これは、難民の方々の問題でもあります」
「IOC、FIFA、FIBA、F1など、世界的なスポーツ機関には、将来のより良い世界の創造と形成に貢献するという、より大きな責任があります」
「スポーツが、政治的な問題から身を引くことが必要だと主張していた時代は終わりました。今日、アスリートたちは、自分たちとスポーツがもっと多くのことをしなければならないと言っています」
東京パラリンピックは、9月5日まで開催されます。
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